2018.05.29更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今月25日、EUにノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインを加えたEEA(欧州経済領域)における個人データの新たな法規制、GDPR(一般データ保護規則)が施行されました。

 

GDPRでは、EEA域内31カ国に所在するすべての個人データの処理(収集や保管)に厳格さが求められ、原則として、個人データの域外への持ち出しが禁止されます。 違反者には、最高で、世界売上高の4%か2000万ユーロ(約26億円)のいずれか高い方という巨額の制裁金が科せられる点もインパクト絶大です。

 

ヨーロッパに営業拠点なんてないし、うちの会社にGDPRは関係ないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは、それは誤解かもしれません。 GDPRは域外適用される場合があるからです。

 

個人情報

 

 

 


 

◆EEA域内に拠点がなくても、GDPRが域外適用される場合がある。

 

EEA域内に拠点がなくても、日本から直接、域内の個人に対し商品やサービスを提供する場合や、域内で行われる個人の行動のモニタリングに関連する個人データの処理は、GDPRの適用対象になります(第3条2項)。そのサービスの提供が有償か無償かを問いません。

 

例えば、日本の旅館やレストランなどが外国人向けに予約サイトで予約をとっている場合や、EEA域内のユーザー向けにスマホアプリを利用させているような場合に、GDPRの適用対象になる可能性があります。

 

このような場合に、域外適用されるか否かは、EEA域内の個人に対して商品やサービスを提供することを想定していることが明らかどうかで判断されます。

 

その判断要素は、①域内からのアクセス可能性、②使用言語、③決済に利用可能な通貨、④その他ウェブサイト上にEEA域内の個人を想定した記載があるか、です。

 

単に、ウェブサイトに英語版のページを用意しているというだけでは、GDPRが適用される可能性は低いと考えられますが、EEA加盟国で使用されている言語や通貨を用いて、商品等を注文する可能性がある場合には、GDPRが適用される可能性は否定できません。

 


 

 

◆GDPRは企業の規模に関係なく適用される。

 

また、GDPRは、大企業だけが考えればいい問題で、うちのような中小・零細企業には関係がないと考える経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、それも誤解です。

 

GDPRは、会社の規模を問わず、中小・零細企業にも適用されます。また、企業だけでなく、公的機関や地方自治体、非営利団体にも適用されます。

 


 

 

◆BtoB取引だけだから、GDPRは関係がないという誤解

 

あるいは、EEA域内に営業拠点や工場等があっても、うちの会社は、BtoB取引だけで、個人データを取り扱わないから、GDPRは関係がないと考えている担当者の方もいらっしゃるかもしれませんが、これも誤解です。

 

域内の工場で現地従業員を雇用している場合はもちろんのこと、現地子会社に日本の本社から、日本人を出向させているような場合にも、その従業員の個人データがGDPRの保護対象になります。

 

GDPRは、EEA域内に「所在」する個人の個人データに適用され、国籍や居住地を問わず、出向や出張、旅行で域内の国を訪れている個人の個人データも保護対象となるからです。

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.05.25更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今、日大アメフト部の悪質タックル問題が、世間の関心を集めています。

前監督やコーチの指示があったのか否かや刑事責任、事件後の日大の対応のまずさばかりが報道されていますが、日々、損害賠償事案を扱う私としては、ついつい民事上の損害賠償責任が気になってしまいます。

 

そこで、損害賠償義務を負うか否かについて、弁護士がどのような思考をするのか追体験していただくため、今回は、悪質タックルによって怪我をした関西学院大の選手が、日大に対して、損害賠償請求をすることができるかについて、検討していきたいと思います。

 

 


 

●法的構成

 

関西学院大の選手と、日大ないしそのアメフト部関係者との間には、何ら契約関係があるわけではありませんので、不法行為に基づく損害賠償請求しか考えられません。

 

この点、在校生が部活動等で怪我をした場合に、在籍している学校に対し、在学契約における安全配慮義務違反等を理由として、契約に基づく損害賠償請求するケースとは、事案を異にしますので、注意してください。

 


 

 

●日大選手の損害賠償責任

 

日大の損害賠償責任を検討する前提として、まず悪質タックルをした日大選手が損害賠償責任を負うかを検討する必要があります。

 

怪我をさせた以上、当然負うだろうとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、原則的に、スポーツ競技による事故は、正当業務行為として、違法性が阻却され(刑法第35条参考)、損害賠償責任を負いません。

 

もっとも、今回のタックルは、怪我をさせることを目的とした、故意による、明らかにルールを逸脱した危険、悪質なタックルですので、正当業務行為の範疇を逸脱しており、当該タックルをした日大選手は不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償責任を負うと考えられます。

 

 


 

 

●前監督・コーチの損賠賠償責任

 

前監督やコーチが、(怪我をさせることを目的とした)悪質タックルを指示したか否かについては争いがありますが、もし指示をしていたのであれば、共同不法行為(民法第719条)に基づく、損害賠償責任を負います。

 

また、具体的指示がなかったとしても、日大選手の悪質タックルについて、使用者責任(代理監督者責任。民法第715条2項)を負う可能性があります。

 


 

 

●日大の使用者責任

 

日大に対する、使用者責任(民法第715条)に基づく、損害賠償請求の可否を検討することになります。

 

日大と前監督やコーチとの間に使用関係があるとされるためには、雇用契約が存在する必要はありません。

雇用か業務委託かや、両者の間に契約関係が存在するかどうかといった点は重要ではなく、実質的にみて使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足ります(実質的指揮監督関係)。他方、独立性・自由裁量性の高い場面では、使用者責任は成立しません。

 

しかも、使用関係は、使用者が被用者を実際に指揮監督していたかどうかという点に即して判断されるのではなく、指揮監督すべき地位が使用者に認められるかどうかという点に即して判断されます。

 

この点、中学校や高校においては、学校の教職員が部活動の指導をしていることが多いでしょうし、校長の監督を受け、部活動の技術指導や大会への引率等を行うことを職務とする「部活動指導員」が学校教育法施行規則に新たに規定され、平成29年4月1日から施行されましたので、容易に指揮監督関係が認められ、学校の使用者責任が認められやすいと言えます。

 

これに対し、私立大学における部活動の法令上の根拠はないようであり、日大と前監督やコーチの契約関係や、規則等実態を精査する必要がありますが、報道によると、前監督は日大の常務理事であることなどからすると、日大の使用者責任に基づく使用者責任が認められる方向に考えられるでしょう。

 


 

 

●理事の不法行為による日大の責任

 

前述の通り、前監督は、日大の常務理事のようです。

 

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条には、「一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められています。

 

そして、日大は、私立学校法に基づく学校法人であり、学校法人には、上記規定が準用されていますので(私立学校法第29条)、同規定に基づく損害賠償請求が考えられます。

 

もっとも、上記規定における「その他の代表者」とは、代表理事の職務を一時行う者、代表理事の職務代行者、清算人などの法人代表機関であり、代表理事から委任を受けた副代理人や代表権を有しない理事はこれに含まれません。

 

結論として、常務理事は、「代表理事その他の代表者」に該当しませんので、この規定に基づき、日大に対し損害賠償請求することはできないでしょう。

 

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.05.24更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

賃貸人が、賃借人の賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除するには、賃借人が数ヶ月分の賃料を滞納していることが必要です。

賃貸借契約の解除には信頼関係の破壊が必要であるところ、1ヶ月程度の賃料滞納や遅れ遅れではあるけれども催告をすれば賃料を支払ってきているという状況では未だ信頼関係が破壊されているとまでは言えないからです。

 

これに対し、時々、「解除はできないのであれば、間も無く賃貸借契約の期間満了なので、更新拒絶すればいい。」と言われる賃貸人や不動産業者の方がいらっしゃいます。

 

しかし、賃貸人から更新拒絶をするには、正当事由が必要であり、更新拒絶が無条件にできるわけではありません(借地借家法第28条)。

 

正当事由の有無は、賃貸人が建物の使用を必要とする事情や、反対に賃借人が建物の使用を必要とする事情を主として、これに従前の経過や、建物の利用状況、建物の現況、立退料支払いの申出等を補充的に考慮して判断されます(同条)。

 

賃料不払いや、滞納を繰り返していることは、正当事由を認める積極要因にはなりますが、いずれにせよ正当事由の有無は、賃貸人及び賃借人の建物の使用を必要とする事情をはじめ、債務不履行の程度等の、総合考慮によって判断されます。

 

また、更新拒絶をするには、期間満了の1年前から6ヶ月前までに通知をしなければならないことも注意が必要です(借地借家法第26条1項)。

 

したがって、基本的には、やはり賃借人の債務不履行による信頼関係の破壊を理由とする、賃貸借契約の解除が可能か否かを検討すべきでしょう。

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.05.18更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

阿刀田高さんの「●●を知っていますか」シリーズ、私は昔からのファンで、「ギリシア神話を知っていますか」をはじめ、全シリーズ読破しています。

 

先日、「源氏物語を知っていますか」を読み終わったところですが、実に面白く、続けて読み直しているところです。

 

 

源氏物語

 

源氏物語を読んで改めて驚いたことですが、恋い焦がれたり、嫉妬に狂ったり、つれなくされ思い悩んだり、すれ違ったり、世を儚んだり・・・と、1000年前のやんごとなき王朝人も、現代人と同じ感情をいただき、同じことを考えていたんですね。

 

ところで、源氏物語には、藤壺や、紫の上、玉鬘、浮舟といった有名なヒロインが数多く登場します。それに比べるとマイナーかもしれないけれど、私が好感を持った女性を二人ほど紹介させていただきます。

 


 

 

末摘花(すえつむはな)

 

源氏物語には、一人だけ、「末摘花」と呼ばれる、とても醜い女性が登場します。

「胴長で、顔色は青く、とりわけみっともないのは鼻・・・。普賢菩薩の乗っている象の鼻みたい。長く伸びて垂れ、先端が赤い。ひどく長い顔。」と紹介しています。

 

ただ頭の形は美しく、とりわけ髪は黒々として長く、床に広がり溢れています。

 

末摘花は、貴い出自の姫君なのですが、後見する者は絶え、生活に困窮し、蓬が生い茂り、庭は荒れ果て、土塀も崩れ、家屋は狐狸や野鳥のすみかと化しています。

 

ついに、身の回りの世話をしてきた信ずべき侍従も去る時がくるのですが、形見に贈る品も見当たらず、末摘花は、精一杯の餞別として、自分の髪の落ちたのをまとめて、カツラとしたのを由緒ある香と共に立派な箱に入れて渡すのです。別れの悲哀がしみじみと描かれています。

 

幸い、この後、末摘花は、源氏の君の庇護を受けることになります。

 

空蝉


 

 

朝顔の姫君

 

ご承知の通り、源氏の君は、間然として非の打ち所がないプレイボーイです。

 

しかし、そんな源氏に口説かれても、心を許そうとしない姫君も中には登場します。それが朝顔の姫君です。

 

朝顔の姫君は、賀茂神社の斎院(神に奉仕する皇女)の任を解かれた後、叔母である女五の宮と共に暮らしはじめますが、老いさらばえた女五の宮は、「源氏が朝顔の姫君の婿になってくれれば、私も安泰・・・」と考えているようです。

 

また、朝顔の姫君の周辺にはべる女房たちもみんな、源氏を大絶賛し、「もったいないわ。なんで姫君はあんなにつれなくなさるのかしら」と不満いっぱいです。

 

しかし、朝顔の姫君は、そんな四面楚歌の状況下、どんなに源氏に言い寄られても、「ほかの女にあなたが示した浮気ごころを私自身あえて体験しようとは思いません。」と、決して源氏を寄せ付けません。

 

利益に負けたり、周りの意見に流されず、自分の気持ちに正直に、それを貫く心構えや実に立派!と、私は強く共感したのでした。

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.05.17更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

契約書は、自社に有利な内容にするのが基本ですが、ライセンス契約など業務提携契約において、何でもかんでも自社に有利な内容にしようとすると、うっかり独占禁止法に違反してしまう場合があります。

 

特に、ベンチャー企業にとって、自社が保有する技術やノウハウを他の企業に提供したり、他の企業からその技術等の提供を受けたりするにあたり、ライセンス契約は重要な契約の一つであり、注意が必要です。

 

今回は、ライセンス契約における改良技術の取扱いについて、ご説明させていただきます。

 

 


 

 

●独占禁止法に違反するおそれがある規定

 

ランセンサー(知的財産権を保有し、権利の利用を許諾する側)であるX社としては、ライセンシー(権利の利用を許諾される側)であるY社が、ライセンス技術に基づき開発した改良技術についても、自社に帰属させたいと考えるかもしれません。

 

しかし、Y社が開発した改良技術について、Y社に次のような義務を課す定めは、原則として、「不公正な取引方法」(一般指定第12項)に該当し、独占禁止法に違反します。

 

 ・X社にその権利を無償で帰属させる義務(アサインバック)

 ・X社に独占的ライセンスをする義務(グラントバック)

 

このような行為は、技術市場におけるライセンサーの地位を強化し、他方、ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、通常、このような制限を課す合理的な理由があるとは認められないからです。

 


 

 

●独占禁止法に違反しない規定

 

他方、ライセンシーY社が開発した改良技術が、ライセンス技術なしには利用できないものである場合に、Y社に次のような義務を課す定めは、原則として、独占禁止法に違反しないとされています。

 

 ・改良技術をライセンサーX社に対し、通知・開示する義務

 ・改良技術に関わる権利を相応の対価でX社に対し譲渡する義務

 ・改良技術をX社に非独占的にライセンスする義務

 

通常、Y社としては、自ら開発した改良技術を自社でも利用したいと考えるでしょうから、改良技術をX社に非独占的にライセンスする義務を、Y社に課すというのが一般的でしょう。

 

この場合、X社に「無償」で非独占的ライセンスをすることにしても、独占禁止法に違反しないと考えられますが、そのような提案をしても、Y社としては、難色を示すでしょう。

 

そこで、X社がY社に、相応のロイヤリティ(対価)を支払うことにすることが穏当です。

もっとも、改良技術がどの程度有用なものかは予めわからず、その額をあらかじめ定めることは困難なことから、ロイヤリティの額や支払い方法については、改良技術をライセンスする段階で、別途協議することになります。

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.05.07更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

母の日というと、赤いカーネーションを連想しますが、最近は必ずしもそうではないようです。

 

お花屋さんによれば、母の日の花として、今年はアジサイが多く出回っているとのことでした。

 

私は、連休中に、ふらっと立ち寄った、自宅近くのお花屋さんで見かけたベゴニアに惹かれ、会議室に飾ることにいたしました。

 

赤いベゴニアの花言葉は、「公平」とのことで、法律家にふさわしいお花ですね。

 

赤いベゴニア

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.04.20更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

もうすぐ、連休。新緑の5月。

当事務所では、爽やかな、新緑のドウダンツツジで、皆様をお迎えしております。

 

新緑のドウダンツツジ

 

アクセントに、アルストロメリアを活けております。

また、一つ、花の名前を覚えました。

 

「未来への憧れ」、「持続」と言った花言葉があるようです。

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.04.10更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今年のソメイヨシノは、例年よりも10日ほど開花が早く、旬が過ぎてしまいましたが、当事務所では、山桜が見頃を迎えました。

 

山桜

 

 

山桜を活けている壺は、400年前の古常滑です。 最近ご縁を得ました、京都の老舗骨董店の方からお譲りいただきました。

 

これからも、折々の草木を活けてまいりますので、ご鑑賞いただければ幸いです。

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.04.06更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

「不動産経営博士」の情報誌「大家倶楽部」春号に、私が依頼を受けて、執筆した「相続における配偶者の居住権を守る民法改正案」が掲載されました。

 

大家倶楽部1

 

大家倶楽部2 

 

 

今年1月、民法(相続法)の見直しを検討してきた法相の諮問機関「法制審議会」が改正要綱を答申しました。相続制度を、高齢社会に合った内容にする法改正で、これが実現すれば、約40年ぶりとなる相続法制の大幅な見直しとなります。

 

その内容である、配偶者居住権の新設や、遺産分割、遺言、遺留分制度等の法改正について、ざっくりと解説させていただいたものです。

 

ちなみに、私は、「不動産経営博士」のウェブ上でも、コラムの執筆をしております。

https://www.chintaikeiei.com/column/b-izawa/

 

これからも、皆様のお役に立つ、不動産や相続等の法律問題について執筆して参りますので、ご一読いただけると幸いです。

 

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

2018.04.02更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

コインチェック社の騒動も、平成30年3月12日からETHなどの仮想通貨が、3月22日からはLSK、FCTの仮想通貨の出金及び売却が順次再開され、ほっと一息ついている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかし、ようやく仮想通貨が出金等できるようになっただけであり、出金等が停止されている間に、仮想通貨の価値が下落したり、高値で売却する機会を逸したことによる損害は補填されていませんので、その損害賠償請求ができるかという問題が残っています。

 

もっとも、この損害賠償請求は、複数の専門的な法的問題点を含んでおり、仮想通貨の返還(送信)請求のように、単純なものではありません。

 

そこで、今回は、仮想通貨の価値下落等による損害賠償請求をする場合の法的問題点について検討いたします。

 


 

●何を債務不履行事由と構成するか?

 

仮想通貨交換業者と登録ユーザーとは、仮想通貨の売買の場の提供や、仮想通貨の管理等を内容とするサービスの利用契約を締結していますので、その法的構成は、利用契約の債務不履行に基づく損害賠償請求となります。

 

その債務不履行事由は、仮想通貨交換業者は、登録ユーザーに対し、利用契約に基づき、仮想通貨の売買や出金等に応じる義務があるのに、相当期間に及びサービスを停止し続け、サービスを提供しなかったこと(履行拒絶)と構成するのが素直でしょう。

 

この点、仮想通貨交換業者は、登録ユーザーからの要求を受けて仮想通貨の出金等に応じるものであることから、利用停止期間中に、登録ユーザーが仮想通貨交換業者に対し、出金等を要求していた方が、より債務不履行と主張しやすいですが、たたえ、このような要求をしていなかったとしても、仮想通貨交換業者が予めサービスの利用停止を公表していることから、履行を拒絶する意思を明示していたとして、債務不履行に当たると考えられます。

 


 

●免責の抗弁

 

仮想通貨交換業者からの反論として、まず考えておかなければならないことは、利用規約に、サービスの停止等の措置により登録ユーザーに生じた損害について一切の責任を負わない旨が定められている場合に、これに基づく免責の抗弁です。

 

しかし、登録ユーザーが個人(一般的に、個人が事業として仮想通貨の取引をしていることはないでしょう。)である場合には、消費者契約法の適用があるところ、上記規定は、同法の「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」に該当し、無効となります(同法第8条1項1号)。

 


 

●債務不履行に該当しないという反論

 

そこで、仮想通貨交換業者からの反論として考えられるのが、利用規約に、「ハッキングその他の方法により当社の資産が盗難された場合」には、サービスを停止できる旨の規定が設けられており、今回のサービス停止は、この利用規約に基づく措置であり、そもそも債務不履行にはあたらないという反論です。

 

これに対しては、

・仮想通貨の出金等に応じるのは仮想通貨交換業者の基本的かつ重要な義務であること、

・利用停止の発端となったNEMの不正送金トラブルは仮想通貨交換業者の管理体制の不備、システムの脆弱性によるものであって、仮想通貨交換業者の帰責性が大きいこと、

・他方、登録ユーザーには何らの落ち度もないこと、

・NEMと他の仮想通貨は別個のものであり、NEMがハッキングにより盗難されたからといって、他の仮想通貨まで一律に利用停止する必要性・合理性はないこと、

・少なくとも2ヶ月間近くもの長期間にわたり、利用停止する合理性はないこと、

・その利用停止は仮想通貨交換業者の任意の判断にすぎないこと、

・仮想通貨は投機性が高いものであるところ、利用停止によって登録ユーザーが被った損害は甚大であること、

等々を主張して、今回の利用停止は、利用規約が想定するケースには該当しないであるとか、本件に適用する限りにおいて利用規約は、「消費者の利益を一方的に害するもの」に該当し、無効である(消費者契約法第10条)などと主張していくことになるでしょう。  

 


 

 

●登録ユーザーが法人の場合

 

登録ユーザーが個人である場合に比し、仮想通貨を会社名義で保有している場合、会社(法人)は消費者に該当せず、当然に消費者契約法が適用されるわけではないため、損害賠償請求をするハードルが高くなります。

 

この点については、大学のラグビークラブチームが消費者契約法上の「消費者」に該当するとし、同法の適用を認めた東京地裁平成23年11月17日判決が参考になります。

この裁判例では、権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、事業者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、消費者契約法2条所定の「消費者」に該当すると判示されています。

 

そこで、仮想通貨の保有・取引の場面においては、登録ユーザーが個人であるか会社であるかで、事業者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において差があるとはいえないことや、その会社の規模や業務内容からして個人で仮想通貨を保有している場合と実質的な差はないことから、登録ユーザーが法人である場合にも、消費者契約法が適用ないし準用されるべきであると主張していくことが考えられます。

 

あるいは、前項と同様、今回の利用停止は、利用規約が想定するケースには該当しないであるとか、利用規約を本件に適用することは、公序良俗に反し無効である(民法第90条)と主張することになるでしょう。

 


 

 

●利用停止と損害との間の因果関係

 

さらに、仮想通貨交換業者からは、仮想通貨の価値の騰落は様々な要因によって生じるものであり、不正送金トラブルや利用停止によって、仮想通貨が下落したわけではないから、債務不履行と損害との間には、相当因果関係が認められないという反論が予想されます。

 

有価証券報告書の虚偽記載や、会社の不祥事等に起因する株価下落について損害賠償請求する事案と、同様の反論です。

しかし、そもそも本件では、不正送金トラブルや利用停止によって、仮想通貨の価値が下落したと主張して損害賠償請求するわけではありません。

利用が停止されている間、登録ユーザーは、仮想通貨の出金も売却もすることができず、その間、仮想通貨の価値下落による損害の発生を回避することも、高値で売却することもできませんでした。

登録ユーザーは、このように、利用停止がなければ、支配しえたはずの仮想通貨の価値と、利用停止が解除された時の仮想通貨の価値の差額を損害賠償請求するものであって、利用停止(債務不履行)と、その債務不履行状態の継続中に生じた損害との間には、相当因果関係が認められると考えられます。

 

もっとも、利用停止期間中の中間最高価格との差額の損害賠償請求が認められるかについては、検討を要します。

損害論については、また別の機会にご説明させていただきます。

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔

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