2020.09.02更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

私は、複数の不動産会社の顧問弁護士をしており、日々、様々な不動産に関する法律相談を受けることがあります。最近、顧問先から、賃貸仲介をした建物に設備上の不備があった場合に、入居した賃借人から損害賠償責任を負うおそれがないかという相談を受けましたので、今回は、賃貸仲介業者の物的状態に関する調査・説明義務についてご説明をさせていただきます。

 

ちなみに、賃貸仲介業者が、説明義務を負う相手方は、賃借人になろうとしている者であり、賃貸人になろうとしている者ではありません。

 

重要事項説明

 

 


■重要事項説明の対象事項


 

 

 

宅建業法35条1項(政省令を含む)には、物的状態については、少なくとも、次に掲げる事項について、説明することが求められています。

 

・飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況


・既存住宅の場合には、建物状況調査を実施しているかどうか、実施している場合にはその結果の概要

 

建物状況調査(いわゆるインスペクション)とは、一定の専門的な知識を有する者(既存住宅状況調査技術者)が、建物の基礎・外壁等に生じている劣化現象や不具合事象(割れ、雨漏り等)の状況を目視・計測等により調査するものです。

 

「既存住宅」とは、①人の居住の用に供した住宅、②建設工事の完了の日から1年を経過した住宅、のいずれかに該当するものです。店舗や事務所は対象にはなりません。

 


また、宅建業者は、専門家として高度な注意義務を負っていることから、列記事項以外でも、これに準じるものは説明すべきと考えられています。

 

 

■裁判例


 

 

 

(東京地裁平成28年3月10日判決)


当該判決は、「不動産の賃貸借契約を仲介する宅建業者としては、当該契約の目的不動産について、賃借人となろうとする者の使用目的を知り、かつ、当該不動産がその使用目的では使用できないこと又は使用するに当たり法律上・事実上の障害があることを容易に知り得るときは、それが重要事項説明書の記載事項(宅建業法35条1項各号)に該当するかどうかにかかわらず、賃借人となろうとする者に対してその旨を告知説明すべき義務がある」と判示しています。

 

上記判決は、原告が、介護施設として利用する目的で被告Yから賃借した建物に検査済証がなく、建築基準法上の用途変更確認申請ができないために、予定していた介護施設を開設できなかったとして、被告(賃貸人)側の仲介業者である被告Y1に対しては説明義務違反(不法行為)に基づき、原告から委託を受けていた仲介業者である被告Y3に対しては委託契約上の調査義務違反(債務不履行)に基づき、損害賠償請求をした事案です。

 

そして、上記判決は、被告Y3には、原告・Y3仲介契約に係る信義則上の義務として、Bから当該建物には検査済証がないことを聞いた段階で、必要な調査をした上で速やかに事情を原告に告知説明する義務が発生しており、それを怠ったことにより原告に生じた損害について、債務不履行に基づく賠償責任を免れないというべきであると判示しました。

 

 


(東京地裁平成21年6月22日判決)


また、当該判決は、「宅地建物取引主任者は、不動産取引等の仲介等を依頼する者に対して、不動産取引等に際して社会的に当然に想定される一般的なリスクや不利益を回避するため、一定の依頼の範囲内で対象物件の客観的状況や権利制限の有無等を調査したり、調査結果に基づいて説明をするべき義務を負っているものというべきである。」と判示しています。

 

もっとも、その程度については、「借主側から仲介を依頼された場合であって、仮に、仲介対象物件の床面積が物件概要書等に記載されている広さよりも狭いことが明らかな場合などには、その事実を依頼者に指摘し、その指示や判断を待つなどすることが必要になるが、そのような特段の事情が認められない場合には、貸主側から提示された物件概要書等の記載を前提として、当然に想定される不利益や問題点等を指摘したり、依頼者から要望があった点に関連する調査や説明等をすれば足りるというべきである。」と判示しています。

 

 


(神戸地裁平成11年9月20日判決)


さらに、当該判決は、「仲介業者は建物の構造上の安全性については建築士のような専門的知識を有するものではないから、一般に、仲介業者は、仲介契約上あるいは信義則上も、建物の構造上の安全性については安全性を疑うべき特段の事情の存在しない限り調査する義務まで負担しているものではないと解するのが相当」であると判示して、阪神・淡路大震災の際に、マンションが潰れて倒壊し、死亡・負傷した事故において、賃貸仲介業者の責任を否定しています。

 

 

■まとめ


 

 

以上の裁判例をまとめますと、賃貸仲介業者の、物的状態に関する調査・説明義務の範囲・程度については次のことがいえます。

 

・当該不動産がその使用目的では使用できないこと又は使用するに当たり法律上・事実上の障害があることを容易に知り得るときは、告知説明すべき義務がある。

 

・社会的に当然に想定される一般的なリスクや不利益を回避するため、一定の依頼の範囲内で対象物件の客観的状況や権利制限の有無等を調査・説明義務を負う。

 

・ただし、不備が明らかな場合など特段の事情が認められない場合には、貸主側から提示された物件概要書等の記載を前提として、当然に想定される不利益や問題点等を指摘すれば足りる。

 

建物の構造上の安全性については安全性を疑うべき特段の事情の存在しない限り調査する義務まで負担しているものではない。

 

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔