2020.08.24更新

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

今回は、マンションの大規模修繕工事について、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、実は理事長が自己所有住戸を高値転売するといる私的利益を図ったものであったと認定し、理事長に対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求を認めた裁判例(東京高裁令和元年11月20日判決)を紹介させていただきます。

 

 

マンション大規模修繕

 

 

■ 管理組合と役員との法律関係


 

 

本件判決は、「一般に、管理組合の役員と管理組合の法律関係については、役員を受任者とし、管理組合を委任者とする委任契約が成立しているものと解され、受任者(理事長その他の役員)は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う(民法644条)。」と判示しています。

 

そして、「理事長は、その職務の遂行に当たり、自己の私的な利益を追求してはならない。私的利益を目的として職務を遂行することは、管理組合に対する善管注意義務違反に当たり、これによって管理組合に生じた損害を賠償する責めに任ずる。」

 

「当該職務の遂行が総会又は理事会の決議に基づくものであったことは、賠償責任を免れる理由にはならない。私的利益を目的とすることを隠し、総組合員の利益を目的とすることを装って総会又は理事会の決議を得たからといって、善管注意義務の違反があることに変わりはないからである。」と判示しています。

 

善管注意義務違反が認められる典型例は、理事長が管理組合の総会決議等を得ることなく、その権限を逸脱して職務遂行をした場合です。しかし、このような場合だけでなく、形式的に総会決議が存在しても、私的利益を目的とする職務遂行である場合には、管理組合に対する善管注意義務違反に当たるとしています。

 


■ 善管注意義務違反〜私的利益を図る目的の認定


 

 

本件判決は、以下の点を総合すると、大規模修繕工事の実施に関する理事長としての職務遂行は、総組合員の利益を目的とすることを装いつつ、その実は理事長自らの私的利益(将来の総組合員の利益を犠牲にした上での自己所有住戸の高値転売)を図ったものと推認することができ、善管注意義務違反があると判示しています。

 

・理事長は自己所有住戸を転売して転居することを考えていた。強い役員就任意欲を示し、理事長に就任するや、強引に大規模修繕工事の実施に一人でのめり込んでいった。マンションの管理会社が時間的、資金的に無理だというのに、理事会決定の趣旨に反して、管理会社への劣化診断等の依頼を怠り、複数社からの相見積もりを取らずに工事業者を選定し、事前に本件住民らへの十分な説明をしなかった。理事長は、総会決議を成立させるために、賛成が多数であるとの説明をしたり、一部の区分所有者に利益誘導したり、虚偽の説明をしたりした。

 

・より小規模な工事で足りたのに、強引に大規模修繕工事を推進した。

 

・漏水対策の中心は、屋上等であって外壁全般ではないのに、理事長は、理事会や総会で、漏水の原因が「外壁」に特定されたとして、外壁補修が漏水対策(大規模修繕工事)の中心であるかのように説明した。そして、工事の重点を秘かに、漏水対策等のための外壁補修から、美観確保のための外壁補修に移動させていった。

 

・大規模修繕工事費用の約3分の2(1000万円)を住宅金融支援機構からの借入れでまかなった。借入金の返済負担は将来の区分所有者の負担となり、また、返済資金を修繕積立金会計で負担するとすれば、将来の区分所有者が修繕積立金会計の資金不足に苦しむことになる。

 

・理事長としての職務遂行の方法は、透明性がなく、強引かつ不誠実である。

 

このように、大規模修繕工事の内容や、工事を実施する必要性、工事実施を承認する理事会決議や総会決議に至る過程、工事を実施した場合における理事長の利害状況等を詳細に認定し、理事長の職務遂行が私的利益を目的とするものであったと判示しました。

 


■ 損害額


 

 

(工事代金)
本件判決は、大規模修繕工事は、客観的な実施の必要性に乏しいのに、私的利益を図った理事長が、管理組合に対して負う善管注意義務に違反して実施したものであるとして、その工事代金全額について、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとしています。

 

ただし、工事代金のうち防水工事費(減額後のもの)は、管理組合がその予備的主張において有用性を肯定していることもあり、その全額を損益相殺の対象としています。

また、ある程度本格的な防水工事を実施するには、防水工事費のほかに、共通仮設工事や直接仮設工事(足場)の一部が必要であること、大規模修繕工事の実施により将来あるかもしれない修繕工事費用の支出の一部を免れたことを考慮しても、損益相殺として控除できるのは、防水工事費(減額後のもの)の全額のほか、工事代金から防水工事費を控除した金額の半分にとどまり、残額は、理事長が賠償すべきであるとしています。

 

(マンション管理士への報酬)
理事長は、大規模修繕工事を実施するに当たり、管理会社と意見が合わなかったことから、独断で、マンション管理士に相談してアドバイスを受け、報酬を支払ったが、これは、理事長が善管注意義務に違反する職務遂行についてアドバイスをもらうための支出であるから、善管注意義務違反と相当因果関係のある損害であるとしています。

 

(借入金保証料及び返済利息)
さらに、理事長が善管注意義務に違反して大規模修繕工事を行わなければ、住宅金融支援機構から融資を得る必要もなかったとして、借入金保証料と住宅金融支援機構返済利息の全額は、理事長の善管注意義務違反と相当因果関係にある損害であり、損害賠償責任を負うとしています。

 

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔