2021.06.01更新

治療費返還

 

虎ノ門桜法律事務所の代表弁護士伊澤大輔です。

 

今回は、インプラント施術の治療契約において、患者都合による治療中断の場合には治療費の返還はしない旨の条項(本件不返還条項)が定められていたが、契約を締結し、治療費を支払った後、インプラント施術前に、患者が亡くなりったため、相続人らが本件不返還条項は消費者契約法第10条により無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき、治療費の返還を求めた裁判例(津地裁四日市支部令和2年8月31日判決)をご紹介させていただきます。

 


■消費者契約法第10条


 

 

同条後段には、「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定められています。

 

民法第1条2項の規定は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と定めた信義則の規定です。

 


■最高裁平成23年7月15日判決


 

 

消費者契約法10条にいう、条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かの判断方法については、最高裁判例があり、「消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。」とされています。

 

 

■津地裁四日市支部令和2年8月31日判決の骨子


 

 

まず当該裁判例は、本件不返還条項は、履行の割合に応じて報酬を請求することができるとする民法656条、648条3項に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項としました。

 

また、上記最高裁判例を引用した上で、次の理由から、本件不返還条項は、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するとして、消費者契約法第10条により無効であると判示しました。

 

・本件不返還条項は、施術が行われることなく終了しても、治療費全額の返還をしないというものであり、治療費の対価性を損なう規定となっていること。

 

・インプラント施術は身体的侵襲を伴うものであるから、治療は患者の意思に基づくものでなければならないところ、本件不返還条項によって、患者が治療を中断等する機会を制限するものであること。

 

・本件不返還条項は、承諾書に不動文字で記載されているもので、患者との個別交渉により合意されたものではないこと。

 

・患者が約3ヶ月ぶりに受診し、初めてインプラント契約が検討されたその日のうちに、契約締結に至っていること。

 

・患者も同伴者いずれも、80歳を超える高齢であったこと。

 


■不当利得の額


 

 

そして、当該裁判例は、見積もりの内容も踏まえると、予定されていた治療の大部分は未だ履行されていなかったと言わざるを得ないが、他方、仮義歯の作成及び調整、口腔内の観察も、インプラント治療において必要な手順であると認められ、4分の1程度は既に履行されていたとして、治療費264万6000円×3/4=総額198万4500円の返還を認めました。

 

投稿者: 弁護士伊澤大輔


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